職業 = 貿易コンサルタント、以上。  

 その5

第9章  新堀 聰 (ニイボリ サトシ) 商学博士  {1934年(昭和9年)  〜 2013(平成25年)年2月27日}

初めて新堀 聰 先生とお会いしたのは第1回ジェトロ認定輸入ビジネス・アドバイザーの2次試験の面接試験の時でした。 私の面接官が新堀先生でした。 面接試験の席上ではありましたが、一目見て「この人は商社マンだ」と思いました。私の予想は的中していました。 商社マンから貿易商務論の学者になられた方でした。 これが、私と「貿易商務論」との出会いでした。新堀先生とは、その後、学会でお会いしたり、セミナーを拝聴したり、色々な著書を読むことになるのですが、この貿易商務論こそ、私が商社勤務時代から求めていたものであると知りました。

 

貿易商務論とは、商学(経済学)の分野の学問であったため、法学部出身の私に出会う機会が無かったとも言えますし、そもそも貿易商務論を研究している研究者の絶対数が多いとは言えない状況なので、出会う機会も少なかったと云えます。新堀先生の著書には良く次のような言葉が示されています:

 実践なき理論は空虚であるが、理論なき実践は危険である。

 

 このフレーズを読んだ瞬間に、「これに違いない!」と確信いたしました。 このフレーズは、今でも私の座右の銘になっていますし、ジョブ貿易事務所のウェブサイトでも掲示しております。 商社に勤務しながら、もやもやとしていた私の気持ちをこのフレーズが一気に晴らしてくれました。 私が探していたものは、実は貿易商務論という学問として既に存在していたのでした。最近知った事なのですが、「貿易実務(=貿易商務)」も学問の名称と捉えられているようです。 現代の貿易実務を学問と呼ばせるまでの領域に持ち上げた研究者は恐らく浜谷源蔵商学博士 でしょう。 浜谷博士の大ヒット著書である「最新 貿易実務(同文館;1982年)」は、私も商社勤務時代に購入していた実務者のバイブル的な教科書です。

 

新堀先生との出会いは、上述のように不思議なご縁とも云うべきものでしたが、ちょうど先生が「国際商取引学会」を立ち上げようとしていた時期でしたので、是非勉強させて頂きたいとお願いして、当時国際商取引学会の会長を務めていた新堀先生から会長推薦を頂き、入会させて頂きました。 貿易商務論の定義としては、『貿易取引を商学の立場から体系化し、理論化したもの{絹巻康史*(きぬまき・やすし)「貿易商務論の新しき地平」P.23 経営経理研究第64号}』とありますが、絹巻先生はその論文の中で「貿易商務論には商学と法学の協働(P.42)、商学と法学の学際的視座が必要(P.40)」であり、「経済的合理性を国際私法の領域に反映させなければならない(P.41)」と述べられています( 1998年に商学と法学の学際的な研究を目的として設立された「国際商取引学会」の発起人の内の一人)。

 

日本法のような大陸法系(成文法)の法学を学んだ者として、英文契約書を読みながらいつも感じる事は「英米法の特殊性」です。 成文法ではなく、判例の集合体からなるコモン・ロー(慣習法)に向き合うと、商学上の経済的合理性に通じるものを感じます。商法の起源が商慣習にある事から、英米法と商学には相性の良さを感じます。 一方、大陸法と商学には、なにがしか対立関係のようなものを感じます。

 

いわゆる先進国とは概ね「法治国家」であると云えると思います。 ウィキペディアによれば、「法治国家(ほうちこっか、独: Rechtsstaat、仏: État de droit)とは、その基本的性格が変更不可能である恒久的な法体系によって、その権力を拘束されている国家。近代ドイツ法学に由来する概念であり、国家におけるすべての決定や判断は、国家が定めた法律に基づいて行うとされる。」ドイツ法とは、大陸法に分類されるので、やはり英米法とは性格を異にしています。 ここで国際商取引学会の研究目的に話を戻しますが、「商学」と「大陸法系の法学」との関係は、「英米法系の法学」よりもどうやら相性が悪そうです。このようにして考えてみると、貿易商務論の視点から、私が望んでいる事を纏めてみると、それは「国際私法の領域に経済的合理性を織り込み、理論的に体系化したい」と云う事であると考えるようになりました。絹巻先生の述べられている事とほとんど同じですが、商学よりも、法学を優先している点が相違点です。 僅かな違いではありますが、この微妙な違いから、私は新堀先生に魅かれたのだと思います。

 

「貿易取引を実務レベルで徹底的に体系化し理論化して認識し、理解する」と云う私の貿易コンサルタントに対する方法論は、貿易商務論に出会った事で確固たるものになりました。

 

10  貿易コンサルタントの社会的意義

平成10年(1998年)、貿易商務論という強力な拠り所を得た私は、自らの職業である「貿易コンサルタント」の社会的意義を整理してみる事に致しました。ジョブ 貿易事務所 を開業してから13年が経過していました。 ジェトロの認定貿易アドバイザーとなってからは、ジェトロから色々な情報を得たり、ジェトロの事業の支援依頼を受ける事になりました。 AIBA関係の業務にも携わっていたので、貿易コンサルタントという仕事を多角的な視点から見つめる事が可能になった事が、貿易コンサルタントの社会的意義を整理する上で、大変役立ったと考えています。

 

振り返ってみれば、総合商社とは貿易商務論を実学として実践している事業体であると再認識致しました。現在の総合商社の源流をたどってみれば、19458月に第2次世界大戦に敗れ、連合国(GHQ)の統制下にあった日本が、1950年に日本の自由貿易が再開され、旧財閥系の企業を中心に巨大な組織の総合商社が形成された時点と云えるでしょう。敗戦により疲弊した我が国の経済を再建させるため、国策として貿易取引を振興してきたと云えます。 USD1=JPY360の円安固定相場を背景に、加工貿易にて外貨収入を得、貿易黒字を重ねてきました。状況が大きく変わったのは、198590年のバブル経済の勃興と破綻の時期に起こりました。円高が進み、海外旅行をする日本人が増え、外国の情報を直接得られるようになり、更には個人輸入を発端に、今まで縁の無かった海外との貿易取引というものが一気に身近なものになったと云えます。これに、インターネットという新技術が加わり、外見的には誰もが容易に貿易取引が出来ると見えるようになりました。勿論、誰もが流通コストの合理化という事を図りましたので、貿易取引の形態が従来の商社を経由させる「間接貿易」から、「直接貿易」に急激にシフトする事になりました。貿易取引の関係事業者である、国際運送業者、外国為替取扱金融機関、外航海上貨物保険業者なども、以下に述べる規制緩和と、そこから生じて来た新たな市場ニーズに合わせて、変容していきました。商取引の基本となる三つの流れ、1)商流、2)物流、3)金流 の三つの流れが全て大きく変わったのです。
1)商流の変化は、Windows® 95 の登場で急速に普及したインターネットによるグローバル・コミュニケーション改革です。 誰もが、容易に海外の情報を得たり、海外と低コストでコミュニケーションする事が可能になりました。
2)金流の変化は、 1998年に実施された外為法の大改正です。 この大幅な法改正により、外為取引は基本的に自由化されました。 当時の外為法改正のガイドブックを読むと、「自己責任」という言葉が目立ちます。 従来は、外為法という法規制により規制されていた外為取引が規制緩和により自由化されましたが、自由化された部分は「自己責任」でリスク管理する事が必要になったのです。
3)物流の変化は、NVOCC (Non Vessel Operating Common Carrier = 非船舶運航一般輸送人)の登場によりもたらされました。 米国の「1984年新海事法」により、NVOCCが正式に認められるや否や、NVOCCは一気に世界中に広がりました。 もともと、航空貨物業界では 「航空貨物代理店」 が 航空貨物輸送において NVOCC のような事業形態を取っていましたので、貿易事業者に NVOCC が急速に広まったのも極めて自然な事だと云えるでしょう。
このようにして、商取引の3大要素がすべて大変革したのですが、ここに大きな落とし穴がありました。 これらの大きな国際商取引の変容は全て「貿易取引のハードウェア上の変化」でありました。

 

それでは、「貿易取引のソフトウェア」はどこにあったのかと云えば、それは総合商社であったと考えています。前述のように、総合商社こそ貿易商務論を実学として実践していた事業体だったのです。比喩として「パソコン」の事例が分かり易いと思うようになったのは、33年に渡る貿易コンサルタントとしての実体験からなのですが、この説明方法であれば平易にご理解頂けると思います。つまり、いくらハードウェアを最新で強力なものにしても、ソフトウェアが陳腐であったり、ソフトウェアそのものがインストールされていなければ、パソコンは単なる箱でしかありません。直接貿易が急激に普及し始めた頃から、すなわち、色々な企業が貿易取引のソフトウェアをインストールせずに直接貿易を始めてしまった頃から色々な問題が起こり始めたのです。総合商社のような貿易商務(=貿易実務)のプロでも、海外との取引では紛争が起こります。 ましてや、ソフトウェアを入れ忘れた企業が貿易取引を行えば、紛争が起こったとしても何の不思議もありません。むしろ、紛争は起こるべくして起きたと云えるでしょう。繰り返しますが、これは私の33年に渡る貿易コンサルタントとしての実体験に基づいて述べています。

 

さて、この章のテーマでありますが、貿易コンサルタントの社会的意義は、ここにあると考えています。 つまり貿易取引のハードウェアを装備した各種企業に対し、従来は総合商社が提供していた「貿易取引のソフトウェア」を総合商社に代わって提供する事です。 私が商社マンだったころ、総合商社には 4つの機能があると云われていました。 1.商品の取引機能(商社の収入源)。2.金融機能。 3.取引のオーガナイズ機能。4.情報機能。バブル経済崩壊後、円高とIT技術の進歩とともに、この4つの機能は総合商社ではなくても得られるようになったと考えられ「直接貿易」が急増していきました。しかし、そこには「貿易取引のソフトウェア」が見落とされていたのです。 勿論、そのソフトウェアは「貿易商務論」に立脚したものでなければなりません。

 

このソフトウェアが対応すべき内容は広範囲にわたり、取り扱う分野も多岐に渡ります。 具体的な例示をすれば、輸出/入事業計画の検証、船積書類の作成方法、貿易金融計画、物流計画、海外顧客との交渉ノウハウ、貿易関係事業者の調整、法令遵守の検証、リスク管理、クレーム・紛争の解決、等々です。どれを取っても、貿易取引には欠かせないソフトウェアですが、ジョブ 貿易事務所 では、近年、特に「リスク管理」と「クレーム・紛争の解決」に注力しています。 そのきっかけとなったのは、ある弁護士から受けた一通のメールでした。


その6へ続く

 

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